公共政策
Online ISSN : 2758-2345
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損害賠償の負担方法と経済的効率性-共同不法行為の経済分析からみたHIV訴訟(2次)和解案における企業の損害負担についての一考察-
越野 泰成
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1999 年 1999 巻 p. 1998-1-018-

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抄録

本論文では、薬害など、損害が複数の加害者によって引き起こされ、かつ損害と加害者の因果関係は明らかであるが、ある被害者の損害はどの加害者によるものかが特定できないような共同不法行為が成立している状況の解決策として、全損害をその財の市場における各企業のマーケット・シェアによって分担する責任ルールを取り上げ、その効果を考察している。結果として、各企業の注意水準と財の生産水準は、ともに社会的に最適な水準を下回ることが示される。そしてこの観点から、HIV訴訟(2次)和解案における各企業の損害分担についても同様のことが指摘されうる。もちろん、この責任ルールの認識や適用についてモデルと和解案の両者に違いはあるが、今後、この和解案が前例として様々な役割を果たすと考えれば、この検討は意義あるものといえるであろう。

さらに、現実的な観点からいくつかの代替的ルールの可能性を検討している。結果として、生産水準と注意水準の両方に依存した責任ルールが、またはそれらに依存せず、各企業に全損害を負担させる責任ルールが社会的総余剰を改善する点からマーケット・シェアルールよりも望ましいことが示される。しかし、前者のルールは制度運営費用がかなり大きくなり、後者のルールは各企業が過大負担となることが予想され、責任ルール適用に際しては、これらの点も同時に考慮する必要がある。

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© 1999 日本公共政策学会
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