Functional Food Research
Online ISSN : 2434-3048
Print ISSN : 2432-3357
マスト細胞の活性化に基づく未熟児網膜症の病態発症メカニズム
松田 研史郎田中 あかね松田 浩珍
著者情報
ジャーナル オープンアクセス

2018 年 14 巻 p. 4-9

詳細
抄録

 近年,新生児・周産期医療の発展や妊婦の骨格構造の変化,多胎率,高齢出生の増加などによって在胎週数が短く出生体重1,000 g未満で産まれる超低出生体重児が増加している.超低出生体重児は組織未成熟による機能不全のため,肺異形成症候群や動脈管開存症,貧血など種々の合併症を引き起こすリスクがある.そのため出生後直ちに高酸素環境での保育が必要で,分娩時からの集中治療において大きな酸素濃度の変化に曝され,純酸素に近い高濃度から通常濃度への極端かつ急激な酸素濃度の変化(相対的低酸素)によって未熟児網膜症が誘発される.
 未熟児網膜症を程すると,網膜血管と無血管野の間の境界部に異常血管が伸長し,重症例では牽引性網膜剥離により視野欠損や失明に陥る.近年の新生児医療の目覚しい進歩により,出生体重わずか300〜400 gの超低出生体重児でも救えるようになったが,皮肉にも医療の進歩により本疾患の患者数は増加の一途を辿っている.未熟児網膜症に対する治療は,レーザーによる光凝固術や強膜輪状締結術,硝子体手術など侵襲性を伴う外科的処置と眼内血管新生病変部位に対する抗vascular endothelial growth factor(VEGF)抗体の投与による薬物療法以外に為す術がなかった.しかしながら,外科的処置は麻酔誘導性発達性神経毒によって後遺症の残る中枢神経障害が誘発されやすく,またVEGFの多様性に基づく抗体の副作用に対して臨床医は非常に慎重な対応を余儀なくされる.
 マスト細胞は,サイトカインやケモカインなどの炎症性メディエーターや硫酸化プロテオグリカンを含む豊富な顆粒を有する造血幹細胞由来血球系細胞の一つで脱顆粒というプロセスを経てケミカルメディエーターを放出し即時型アレルギー反応を誘導する.他方,組織修復や腫瘍化のプロセスにおける血管新生のエフェクター細胞としても注目されている.
 最近,我々の研究グループはマスト細胞が相対的低酸素をセンシングすることを証明した.さらに脱顆粒によって放出されたトリプターゼが未熟児網膜症のモデルマウスである酸素誘導性網膜症における網膜血管異常新生を誘発することを証明した.本稿では,従来の知見に基づくVEGF依存的な未熟児網膜症の病態形成に加えて,マスト細胞の活性化に基づくVEGF非依存的未熟児網膜症の病態形成と新たな治療指針の可能性について我々の研究成果とともに最新の知見を考察する.

著者関連情報
© 2018 ファンクショナルフード学会
前の記事 次の記事
feedback
Top