2023 年 27 巻 3 号 p. 186-194
【目的】嚥下機能障害患者には水分に適切なとろみを付与することが必要な場合があるが,とろみに対する患者の感覚的・心理的な理由で水分摂取量が減少してしまうことは避けなければならない.しかし,今まで患者視点からのとろみの官能評価についての検討は行われていない.そこで,市販飲料をそのまま摂取することが,患者のとろみに対する心理的負担を軽減させると想定し,市販飲料の粘性と官能評価に関する研究を行った.
【方法】市販飲料35 製品の粘度およびLST 値を測定した.各市販飲料の温度を測定後,簡易トロミチェッカートロマドラー® を使用し,粘度測定とライン・スプレッドテストによる粘度測定を行った.
【結果】乳製品はヨーグルト飲料の種類により薄いとろみ,中間のとろみ,濃いとろみに分かれていた.スープ類では,缶タイプの粘度は濃いとろみであり,カップタイプのコーンスープは薄いとろみと中間のとろみの間であった.粘度とLST 値の関係の検討を行ったところ,Spearman の順位相関係数により高い負の相関(p<0.01,R=-0.60)を認めた.官能評価は4 製品と薄いとろみの水で行った.官能評価では,薄いとろみが5 品目の中では一番高くなり,ヨーグルトドリンクが一番低かった.ヨーグルトドリンクと薄いとろみ(p<0.05),ヨーグルトドリンクとトマトジュース(p<0.05)に有意差を認めた.
【考察】製品そのものに薄いとろみ程度の粘度が付与されているものもあり,とろみ調整食品を付与せずとも摂取が可能であると考えられる.各市販飲料の粘性に合わせた使用量,指導内容を提示したうえで飲みなれた飲料を摂取することで,患者の心理的負担は軽減し,安全で患者の嗜好に沿った食事を提供することが可能であり,ひいては患者のQOL 向上にもつながると考える.