日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
老年者糖尿病と脳梗塞-特に治療法との関連
板垣 晃之春山 勝吉田 亮一鈴木 孝臣早川 道夫大友 英一盤若 博司
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1987 年 24 巻 6 号 p. 519-524

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抄録

老人ホームに在住していた60歳以上の男女, 590例に経口ブドウ糖負荷試験を施行し, 糖尿病 (DM), 非糖尿病に分類し, 耐糖能別及びDMの治療法別で脳の大梗塞 (全例剖検にて確認) との関連を Retoro-spective に検討した. 又, 脳梗塞の発症に関連があると考えられる背景因子についても比較した.
1: 大梗塞はDMと非DMで頻度の差は認めなかったが, DMの治療との関連をみると大梗塞はスルフォニールウレア (SU) 群22.5%で最も高率で食事単独 (F) 群の約6.8倍 (p<0.001), 非DMの2.6倍(p<0.01) であった. 高血圧の合併の頻度でみても, ほぼ同様で, 特に高血圧合併例ではDMのSU群はF群の7.2倍 (p<0.01), 非DMの2.5倍 (p<0.02) と高率であった.
2: 背景因子としての死亡時年齢, 高血圧合併の頻度, 心房細動の頻度にはDMのSU群とF群の間で有意差を認めなかった. 初回検査時年齢 (発症年齢) および初回検査時の空腹時血糖が140mg/dl以上の例の頻度はSU群で有意に (p<0.01) 高く, 脳動脈硬化高度例の頻度は高い傾向 (p<0.1) であった.
3: DMのSU群で大梗塞の有無により背景因子を比較すると低血糖は大梗塞例に有意 (p<0.05) に多く, 初回検査時空腹時血糖140mg/dl以上の症例の頻度は大梗塞例に多い傾向 (p<0.1) を認めた.
以上の結果から脳動脈硬化が進展していると考えられる高齢者のDM例にSU剤を使用する場合, 低血糖の発生が脳の大梗塞の発症と何等かの形で関連している可能性も考えられるので, 特に注意を要する.

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