日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
老年者胃潰瘍の再発に関する検討
上部消化管出血に焦点をあわせて
武藤 信美椎名 泰文瀬上 一誠原澤 茂三輪 剛
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1987 年 24 巻 3 号 p. 278-283

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抄録

目的: 老年者胃潰瘍の再発に関し, 上部消化管出血例と非出血例とで比較検討した.
対象: 当院での過去5年間における胃潰瘍入院患者367例のうち, 65歳以上の胃潰瘍74例 (平均年齢74±6.07歳, 男性45例, 女性29例) について検討した.
検討項目: 1. 胃潰瘍入院患者数に占める老年者胃潰瘍入院患者の年次的変化. 2. 老年者胃潰瘍の病態 (潰瘍占居部位, 胃酸分泌能, 胃排出能). 3. 上部消化管出血例と非出血例との病態の比較. 4. 1年以上5年以内の経過観察において再発をきたした群と非再発群との病態の比較. 5. 内視鏡下純エタノール局注法施行例の再発の有無. 6. 全年齢における胃潰瘍手術例に占める消化管出血による手術例の年次的変化を検討した.
成績: 1. 胃潰瘍入院患者数は昭和56年, 1年間に84例であったのに対し, 昭和60年は54例と減少していたが, 老年者では減少がみられなかった. 2. 潰瘍占居部位は高位潰瘍であるC位潰瘍が53例 (71.6%) と最も多かった. 胃酸分泌能 (mEq/h) はBAO 1.27±1.77, MAO 6.86±5.84と低酸例が多かった. 3. 出血例と非出血例とでは病態に有意な差はなかった. 4. 経過観察中, 再発をきたした例は全体の16%で, 出血既往の面からは特に差はみられなかった. 再発例は全例男性であり, 潰瘍占居部位は, 老年者胃潰瘍全体で高位潰瘍が多かったのに対し, 再発例では胃角部が5例(50%)と最も多かった. また, 再発例はMAO 11.73±9.25と比較的良好な酸分泌能が保たれていた. 5. 出血に対して純エタノール局注法を行なった症例には再発は認められなかった. 6. 消化管出血による手術例は近年減少の傾向がみられた.
結語: 今回の検討では, 老年者胃潰瘍は, 出血例も非出血例も病態に差はなく, 出血に対して純エタノール局注法を施行した症例には再発を認めなかった. また, 再発症例は胃角部の潰瘍が多く, 比較的良好な酸分泌能が保たれていた.

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