日本食品工業学会誌
Print ISSN : 0029-0394
酢酸を炭素源として培養した酵母の製パン性能について
高橋 治男高野 博幸小柳 妙田中 康夫真鍋 勝松浦 慎治
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1979 年 26 巻 9 号 p. 375-382

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抄録

酢酸を唯一の炭素源としてパン酵母の培養を行ない,得られた酵母について製パン性能の評価を行なって,つぎの結果をえた。
(1) 酢酸培養酵母の食パン生地発酵能,高糖生地発酵能,および貯蔵性(耐久力)について検討した結果,酢酸を炭素源としてほぼ市販酵母に匹敵する性能の酵母を作りうる可能性が示唆された。
(2) 本実験の培養条件下で得られた酢酸培養酵母の貯蔵炭水化物含量は,市販パン酵母よりも少なかった。
(3) 酢酸培養酵母のマルトース適応能は市販パン酵母より著しく劣っていた。これは酢酸を炭素源として培養したことによるものであり,同一菌株を廃糖蜜によって培養した場合,マルトース発酵能およびマルトースへの適応能は市販酵母より優れていた。
(4) 酢酸培養酵母のマイセル液内発酵力は市販パン酵母より著しく劣っていた。しかしマイセル液に小麦粉,小麦粉抽出液,麹汁,酵母エキスなどのいずれかを加えた場合,市販パン酵母にはみられぬ著しい発酵増大効果が認められた。
(5) S. cerevisiae FRI-44を,酢酸を炭素源として培養した場合,グルコースによって培養した場合よりも遊離アミノ酸含量が低かった。
(6) 酢酸培養酵母を用いて作ったパンは体積,品質共に市販パン酵母によったものよりやや劣っており,とくに香りの点で明らかな差が認められた。

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