日本食品科学工学会誌
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技術論文
CFDシミュレーションによる噴霧乾燥機内のホエイ粉の付着堆積の評価
三塚 翔髙野 真新川 真二郎舟橋 治幸大上 芳文吉岡 孝一郎
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2021 年 68 巻 2 号 p. 65-76

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抄録

ホエイ粉の噴霧乾燥機内壁に対する付着現象を対象とし,1)CFDシミュレーションの確立,2)CFDシミュレーションの精度向上,3)ホエイ粉の付着現象の解明に関した検討結果を報告した.

まず,CFDシミュレーションの確立に向けて,液滴含水率の低下に伴う乾燥速度の低下(減率乾燥),ガラス転移温度に応じた乾燥機への付着堆積をCFDシミュレーション上に再現する必要があった.脱脂粉乳およびホエイ粉を対象とした単一液滴乾燥試験およびDSCの結果に基づき,減率乾燥および付着堆積をモデル化した.

次に,乳製品の噴霧乾燥におけるCFDシミュレーション精度の向上を検討した.CFDシミュレーションにより,減率乾燥を考慮しない計算では液滴水分のほぼ全量が出口に到達するまでに蒸発するのに対し,減率乾燥を導入したモデルでは液滴含水率の低下に伴い水の蒸発が抑制されることが明らかとなった.付着堆積モデルを組み込むことで,ホエイ粉の付着位置がチャンバー胴部の上部やコニカル部で観測され,実現象が再現されていた.つまり,Kweiの式に近似したガラス転移温度の含水率変化,Patersonの付着判定式,Walmsleyの付着式を組み合わせた付着堆積モデルは,脱脂粉乳だけではなく,ホエイ粉の噴霧乾燥における付着に適した有用なモデルであった.また,実測値との比較において,蒸発効率,蒸発容量,蒸発流量,熱効率,乾燥機入口の空気温度,胴部の上部の壁面温度,コニカル部の空気温度および排風温度に整合性を確認し,CFDシミュレーションは実際の噴霧乾燥の応答傾向を高い精度で再現できた.

最後に,ホエイ粉の噴霧乾燥における付着現象の機構を検討した.その結果,ホエイ粉の方が脱脂粉乳よりもガラス転移温度の低い粒子割合が高いため,“付着”と判定された粒子が増加することが分かった.

以上のように,減率乾燥および付着堆積のモデルを導入することにより,脱脂粉乳だけではなく,ホエイ粉の噴霧乾燥を対象としたCFDシミュレーション精度が向上した.ホエイ粉の付着はガラス転移温度の低い粒子の影響であることが明らかとなった.

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