獣医疫学雑誌
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肥育豚に発生したSalmonella Typhimurium感染症の経済損失
堀北 哲也渡辺 一夫
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1998 年 2 巻 1 号 p. 29-34

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抄録

管内のウィンドレス肥育豚舎 (2, 200頭収容) で肥育末期の豚にSalmonella Typhimurium症が発生した。そこで抗生物質の投与, 肥育舎の消毒および換気不良の改善などの清浄化対策を実施した結果, 発生は第17病日で終息した。本症における経済損失は3, 352, 945円であった。そのうち, 収益の損失が1, 842, 484円, 費用が1, 510, 461円であった。収益の損失の内訳は, 死亡豚による損失が630, 513円, 出荷日齢の延長による損失が854, 515円, 出荷体重の減少による損失が293, 148円および枝肉単価の減少による損失が64, 308円であった。収益の損失の46.4%を出荷日齢の延長による損失が占めた。費用の内訳は, 薬剤費が766, 145円, 人件費が167, 726円および検査費が576, 590円であった。本症例は, 死亡頭数は少なかったものの, 発症耐過豚に発育遅延が認められた。このため収益の損失は, 出荷日齢の延長による損失が大きかった。また, 本症例は肥育末期の豚に発生したため, 出荷体重に達した豚が出荷できず, その次に出荷予定であった豚を出荷した。その結果, 出荷体重の減少や枝肉の上物率の低下を招き損失を被った。以上のように豚のサルモネラ症は肥育末期に発症すると, 大きな経済損失をもたらすことが明らかとなった。経済損失の算出には獣医師や生産者が記録した情報が不可欠であった。また, 出荷日齢についての記録が欠如していたために肥育日数の算出は困難であった。このことから, 経営疫学上, 豚群あるいは個体毎の移動記録 (特に日齢を把握できる情報) は極めて重要であると考える。

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