紙パ技協誌
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総説・資料
紙パ技協誌の新たな発展に期待して
第16回:人間の外部記憶装置として必要な雑誌の機能
尾鍋 史彦
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キーワード: Z2紙パルプ産業一般
ジャーナル 認証あり

2021 年 75 巻 10 号 p. 942-944

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抄録

書写材料の出現は人間に何をもたらしたのか。端的に言えば,粘土板・石板・亀甲・パピルス・羊皮紙などを淘汰して最後に紙が現れ普遍化し現代に至っている。書写材料が現れる以前には人間は日々生起する情報を無意識の内に取捨選択し自身の脳内に記憶しておく必要があった。しかし文字と書写材料の出現後には人間は記憶の多くを外部記憶装置としての書写材料に委ね,自身の脳を思索や創造的なことに向ける余裕ができ,古代文明に始まる様々な文化と文明を現代まで発達させ,継承してきたことを歴史は示している。

一人の人間の脳の情報蓄積容量は無限という説もあるが,脳が有限な閉鎖的な形態をもつことを考えるとやはり情報蓄積容量には限界があり,日々新たな情報を採り入れ情報を更新し続け,創造的な行為を行うには可能な限り人間の外部に情報の記憶・蓄積装置をもち,必要に応じて人間と記憶装置の間で情報の伝達・交換を行う体制をとっておく必要がある。この外部記憶装置は現代では書物・雑誌・新聞などの紙メディアだけでなく,電子メディアが重要な位置を占めている。

本稿では人間と雑誌の関係を情報生態系として捉え,人間の脳を内部記憶装置とし見做した場合,人間の外部記憶装置という視点から雑誌の存在理由を考えて見たい。

さらに2021年9月のデジタル庁の発足に伴い紙メディアにある種の逆風が生じる可能性が考えられるが,認知科学などの科学的・理論的な知的備えを準備しておくことは無駄ではないだろう。

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