紙パ技協誌
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新入社員歓迎号
セルロースナノファイバーの実用化に向けた検討
―機能性添加剤の開発―
河崎 雅行
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2016 年 70 巻 4 号 p. 374-378

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抄録

セルロースナノファイバー(CNF)の製造および用途開発が世界的に行われており,当社も新しいバイオマス素材としてCNFの実用化に向けた開発に注力している。CNFは結晶性の高いナノ繊維で,軽量・高強度,低熱線熱膨張などの特長を有しており,様々な用途が考えられている。その中で,食品,化粧品,日用品などの増粘剤やゲル化剤のような添加剤としての利用は,粉末セルロースやCMCなど既存のセルロース製品と類似しており,早期実用化が見込まれる。
当社のCNFの製造は,TEMPOと呼ばれる有機触媒を用いた酸化処理またはモノクロロ酢酸でエーテル化する方法を主に検討している。パルプをこのような化学処理することでより低い解繊エネルギーでナノレベルまで微細化することが可能となる。当社は岩国工場に設置した実証機(生産量30t/年)を用いて,量産化に向けた技術開発および用途開発向けのサンプル提供を行っている。
現在,CNFは数%の低濃度の水分散液として製造しているが,添加剤として実用化するためには固形化することが求められる。しかし,CNF水分散液を単に脱水・乾燥するとCNF同士が強く凝集するため,固形化したCNFに再度水を加えても元の分散体の透明性,粘性を示さない。再分散が可能なCNF水分散体の固形化方法として,pH調整,水溶性高分子の添加などの方法を見出し,ユーザーへのCNF粉末品のサンプル提供も開始している。
機能性添加剤として既存の粉末セルロースやCMC,HECなどとは異なり,CNFはナノオーダーで結晶構造を維持した繊維状態で分散している。この違いからCNFは添加剤の特徴として,チキソ性が高く分散安定性,乳化安定性に優れていること,曵糸性がなく肌に塗布した際にべた付き感がないこと,高強度のゲル化が容易であることなどが見出されている。このような特性を利用して,食品,塗料,日用品,化粧品などへの添加剤としての展開を検討している。
今後は,CNFの量産化技術の確立とCNFを利用するユーザーとの連携をさらに強化するとともに,産業用素材としてのCNFの品質規格や安全性の評価を早期に確立する必要がある。とくに機能性添加剤で食品や化粧品の用途を考える場合,安全性は重要な評価であり,これについては大学,公的研究機関との連携が不可欠と考えている。

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© 2016 紙パルプ技術協会
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