製紙用紙力剤として用いられている両性PAMの紙力発現機構についての知見を得ることを目的に,その基質への吸着挙動についてQCM―Dなどの分析機器を用いて解析を試みた。
QCM―Dでは物質の基質への吸着量と,吸着した物質の粘弾性に関する情報が得られる。両性PAMや,PAC(ポリ塩化アルミニウム)と両性PAMの併用,これらの複合体との比較から,両性PAMは基質上で立体的に広がった形態を取ることが確認され,また吸着過程において基質上でポリマーのコンフォメーション変化が起きていることが示された。基質としてシリカ,セルロース薄膜を用いて比較したところ,電荷密度が低いセルロース薄膜の方がポリマーはより立体的に広がった形態で吸着していることが確認された。以上の結果から,両性PAMなどのポリマーの吸着挙動はポリマーの電荷,基質の電荷の両方が大きく影響することが示された。また,pHも両性PAMの吸着に大きく影響を及ぼし,pH7~8において吸着量が最大となった。これは両性PAMの等電点と一致した。両性PAMはその等電点において立体的に広がった形状で吸着しており,等電点から離れるに従い基質表面にフラットな形状で吸着していることが示された。