日本畜産学会報
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羽毛および羊毛の常温,常圧条件下におけるアルカリ可溶化と その生成物のアミノ酸組成
前田 英勝沼田 幸代豊田 敦
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1997 年 68 巻 6 号 p. 587-595

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抄録

羽毛や廃毛はケラチンで構成されており,貴重なタンパク資源である.他方,近年,鰯の不漁や大豆の価格高騰により飼料や有機質肥料製造のためのタンパク質原料の調達が困難な状況にある.そこで,羽毛や廃毛の有効利用技術としてより簡便で大量処理が可能な溶解方法の開発が望まれている.研究の結果,羽毛と羊毛を常温常圧下アルカリで処理するのみで可溶化できることを見いだした.羽毛の場合30°Cで20時間,3%および5%水酸化ナトリウムで処理したとき,可溶化率はそれぞれ43.5%,91.9%であった.5%水酸化カリウムでは54.9%であった.羊毛の場合30°Cで20時間,3%および5%水酸化ナトリウムで処理したとき,可溶化率はそれぞれ81.6%,95.6%であった.5%水酸化カリウムでは85.1%であった,羽毛や羊毛を5%水酸化ナトリウムで可溶化した液には1%前後のL-セリン,0.5%前後のグリシン,それに微量の未知のアミノ酸誘導体が含まれていた.両可溶化液に90%濃度になるようにエタノールを加え,沈澱画分と上清画分に分画した.羽毛の場合同じ量の溶解成分が沈澱画分と上清画分に分配されていた.羊毛の場合溶解成分の77%が沈澱画分,23%が上清画分にそれぞれ分配されていた.これらの結果から羽毛や羊毛はアルカリ分解によって大きく崩壊していることが分かる.両画分の塩酸加水分解物に存在するアミノ酸の大部分はL-グルタミン酸等,一般的なアミノ酸が占めていたが,それ以外にはL-システイン酸,ランチオニン,2種類の極微量の未知のアミノ酸誘導体が検出された.必須アミノ酸の含量は少なかった.薄層クロマトグラフィの結果ではアミノ酸以外の物質に由来するスポットは認められなかった.これらの可溶化物を各種の酵素を用いて分解した結果,32-33%のアミノ酸が得られ,L-バリンやL-ロイシン等疎水性のアミノ酸が多く認められた.羽毛および羊毛をアルカリで可溶化後リン酸で中和し,有機質肥料としての用途が考えられる.

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