2020 年 40 巻 3 号 p. 319-327
後方病変でForeign Accent Syndrome (FAS) を呈した 1 例を経験した。症例は 60 代の右利き女性で, 左上側頭回の皮質下出血を発症した。言語所見では, 流暢性失語に加えてピッチアクセントの異常, 音の伸長などのプロソディー障害を認め, 周囲に「英語なまりの日本語」と感じさせる発話であった。特徴的であった点は, アクセントの誤りがおおむね規則的で語末から 3 モーラ目にアクセント核を置いたこと, 語末モーラを伸長させて発音したことなどであった。これらのプロソディー障害について, 発現機序や FAS との関連性を言語学的, 神経心理学的観点から考察した。また FAS には, 左前頭葉病変で音声実現レベルの障害に由来するタイプのほかにも, 左側頭葉病変でアクセント型の想起障害に由来するタイプが存在する可能性について言及した。