一発語失行例と健常対照群5名の発話について音響学的分析を試み,発話の変動性という観点から検討した。2~4音節の 30単語を用いて,1つの単語につき,3回連続呼称して得られた発話の所要時間,語頭子音の最大音圧,基本周波数を計測し,比較検討した。その結果,発話所要時間,語頭子音の最大音圧,1母音内の基本周波数において,健常群では変動は小さい傾向にあったが,発語失行例ではばらつきが大きく一定の傾向は認められなかった。一方,単語内の基本周波数では,発語失行例は健常群に比べ変動が小さく平坦であった。これらの結果から,発語失行例の発話の障害には,呼気運動や声門閉鎖運動との協調運動を含めた構音器官の意図的運動の障害が関与している可能性が示唆された。また,聴覚的印象による分析だけでは把握できない症状の分析に音響学的分析は有効であると考えられた。