1996 年 36 巻 6 号 p. 815-819
胸壁への浸潤が疑われ悪性腫瘍との鑑別が極めて困難であった肺炎症性偽腫瘍の1例を経験したので報告する. 症例は67歳, 男性, 胸部レントゲン撮影で右上肺野に空洞を伴った腫瘤影が認められ, 陰影が増大してきたため入院となった. 肺原発悪性腫瘍の診断で開胸した. 右上葉切除術ならびに胸壁合併切除を施行した. 腫瘍の大きさは48×54mm, 固く胸壁に接しており, 浸潤していると考えられた. 腫瘍は組織学的にほとんどを紡錘形細胞が占め, 密に配列しており, 紡錘形細胞の間にリンパ球, 組織球, 形質細胞の浸潤が認められた. 免疫組織学的検索では, PCNAは腫瘍中心部分と胸壁浸潤部分で多くの細胞が陽性を示したが, P53はどちらの部位でも陰性であった. 腫瘍細胞のflow cytometryによるDNAパターンはdiploidパターンを示した. 胸壁に浸潤し悪性腫瘍との鑑別が困難であった肺炎症性偽腫瘍と診断した. 術後3年を経過したが再発の兆候なく良好に経過している.