身体パラフレニア(Somatoparaphrenia;以下SP)は, 病態失認を伴い多くは麻痺肢に認めるものであるが体幹部に限局して出現した報告例はない. 今回, 右頭頂葉皮質下出血後に体幹部に人格化を呈した症例を経験した. 症例は80代女性で, 左上下肢に明らかな運動麻痺は認めないものの, 立位・歩行場面で姿勢保持に障害を呈した. さらに病態失認に加え, 立位・歩行場面に限局して体幹部に「孫」という人格の存在を認めた. 本例の運動障害は, 臨床所見より頭頂連合野損傷に伴う感覚統合処理障害に起因した姿勢保持障害であると考えられた. 体幹部に認めた「孫」の存在は, SPの様相の1つである人格化を呈したこと, 責任病巣と推定される右頭頂葉の損傷を認めている点から体幹部に生じたSPであると推察された. SPの背景となる障害の相違により, 出現部位に差異が生じる可能性が考えられた.