情報通信政策研究
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寄稿論文
米国連邦通信委員会2014年規制改革審査報告―メディア市場の変化とメディア所有規制の理念の実現
佐々木 秀智
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2019 年 2 巻 2 号 p. 1-13

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抄録

本論文は、米国のメディア所有規制の最近の動向について検討するものである。1996年電気通信法(Telecommunications Act of 1996)第202条(h)が連邦通信委員会(FCC)に対して、4年毎の規制改革審査を行い、公共の利益に資さないと判断されたメディア所有規制の廃止・緩和を命じており、FCCは2014年からの期間の規制改革審査を行い、2016年及び2017年にそれぞれ報告を公表している。

これらの報告の間に政権交代が生じ、2016年報告は民主党政権下、2017年報告は共和党政権下で作成された。そこでは、言論・プレスの自由を保障する連邦憲法修正第1条に関するそれぞれの政党の基本思想の違いがあり、それに基づいたメディア所有規制の3つの基本理念(情報の多様性(diversity of information)、地域性(localism)、競争(competition))を実現するためのFCC規制の在り方に関して、修正第1条の民主主義的側面を重視し、情報の多様性を確保するために政府による規制を肯定する民主党の公共の利益アプローチ(Public interest approach)、思想の自由市場におけるメディアの自由競争によって情報の多様性が確保されるとして、政府による規制に消極的な共和党の市場主義アプローチ(Marketplace approach)が存在する。

本論文は、この2つのアプローチを概観したうえで、特に2017年報告では存続と判断された一方で、2017年報告では廃止と判断された、日刊新聞・放送相互所有(NBCO)規制を題材として、それぞれの報告の基本思想及びメディア市場に関する認識、新聞・放送といった伝統的メディアとSNS等の新たなネットメディアを修正第1条上いかにとらえるかについて分析を行った。

以上をふまえて本論文は、米国の状況の分析から、我が国における言論の自由・メディアの自由に関する詳細な理論化、詳細なメディア市場分析の必要性を指摘し、またメディア所有規制の基本理念を十分に実現するために、個々の規制についても、言論の自由・メディアの自由・民主主義の観点から、規制根拠と具体的規制の関連性等について詳細に検討する必要があると結論づけた。

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© 2019 総務省情報通信政策研究所
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