NEUROSURGICAL EMERGENCY
Online ISSN : 2434-0561
Print ISSN : 1342-6214
脳神経外科/救急専門医からみた脳神経救急
小畑 仁司
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2020 年 25 巻 2 号 p. 139-146

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抄録

 三次救命救急センターに搬送される患者の多くは重篤な神経傷病患者である.脳卒中や頭部・脊髄外傷など手術治療を要する狭義の脳神経外科傷病のみならず,全身痙攣重積状態やさまざまな原因による意識障害など,脳神経外科医が救急医療に関わる機会は数多い.しかしながら,救命指導医施設に常駐する脳神経外科専門医は,著者の調査では3.4%に過ぎず,10年前と比較して脳神経外科を含む神経系医師は減少している.単独型三次救命救急センターである当施設では,北米ER型のシステムとは異なり,脳神経外科医は同時に救急医であり,脳神経外科手術のみならず救急初療から重症患者のICU管理までを担当する.このシステムにより,時間的猶予のない状況,たとえば切迫脳ヘルニアや脳動脈瘤再破裂など,では迅速な判断と専門的治療が開始できる.重症神経傷病患者の集中治療においては,近年普及したさまざまなモニタリング機器を駆使して病態を把握し神経機能を保全することが転帰改善のために重要である.このためには,脳神経と集中治療の両領域に精通した専門医としての神経集中治療医(neurointensivist)の関与が望ましい.米国ではNeurocritical Care Society(NCS)がめざましく発展し,神経集中治療医が中心となって関連各診療科と各職種の協力のもとに重症神経症病患者の診療を行う体制が確立しており,患者転帰の改善に有効であったとの多くの報告がある.わが国では救急科専門医と脳神経外科専門医を併せ持つダブルボード医師が脳神経外科救急を支えてきた.脳神経外科医も救急医も減少しつつある現在,脳神経外科救急・集中治療の担い手の育成は急務である.神経蘇生研修や神経集中治療ハンズオン,あるいはNCSによる神経救急初療の教育コースであるEmergency Neurological Life Supportを起点として,神経救急・集中治療の普及と神経集中治療医の育成を期待したい.

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© 2020 日本脳神経外科救急学会
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