日本重症心身障害学会誌
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Print ISSN : 1343-1439
一般演題
O-2-07 家族の語りからとらえる重症心身障害児(者)の生の軌跡
−ブリコラージュとして−
宮地 知美郷間 英世
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2021 年 46 巻 2 号 p. 233

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抄録

目的 重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))入所施設は、医療の場であると同時に生活の場である。しかしカルテ等の情報は医療的視点が優位であり、個人のそれまでの暮らしや価値観を伝える情報は少ない。個人の生活を知ろうとするとき、語りは大きな手掛かりとなるが、重症児(者)自身が語ることは難しい。家族は、自分とは異なる身体である重症児(者)を、自らのなかに引き受け、成りかわって語り、様々な事柄を決定している。そのプロセスは家族の中で無自覚的に行われている。 レビィ・ストロースは、ありあわせの材料を用いる思考方法を、日曜大工に例えてブリコラージュと名付けた。今回、家族の中に意識されずに眠っている「重症児(者)のエピソード」を語りによって生成し、ブリコラージュ的に「重症児(者)の生の軌跡」へと再構成し、医療的視点とは異なる視点の情報が残せないかを試みた。 方法 2018〜19年の2年間、A市の重症児(者)入所施設の入所者家族1名にインタビューを実施した。インタビューは4回実施、延べ時間は4時間23分だった。 インタビューにより得られたナラティブを分析に用いた。逐語録を作成し、家族が、子どもをどのような人としてとらえ、どのような行動を選択しているかに注目した。該当するエピソードを抜き出し、次のインタビューでは抜き出したエピソードをならべて、家族と語った。エピソードは、時系列にならべたり、好き・嫌いで集めたり、身体や動きでまとめたり、いろいろな組み合わせを試みた。 結果 インタビューで得られたエピソードが軸となり、別のエピソードが生成された。また、家族の、一見非合理にみえる行動も、集積された暮らしの視点からみると決して非合理ではないことが分かった。それは医療的視点とは別の視点であり、ブリコラージュ的に生の軌跡を再構成する方法は、重症児(者)の暮らしを知るうえで有効であることが示唆された。

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