日本重症心身障害学会誌
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市民公開講演 特別講演
医療的ケア児の母として
野田 聖子
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2019 年 44 巻 2 号 p. 325

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抄録

9年前、妊娠中に息子の臍帯ヘルニアと心臓疾患がわかった。 生まれた後も食道閉鎖症が見つかり、それが原因で気管軟化症となり、気管切開をして人工呼吸器をつける手術を受けた。その他にも大きな手術を10回も受け、息子のいまがある。また呼吸が止まった時の脳梗塞の後遺症から、右手・右足に麻痺があり、今でも自由に動かすことができない。 医療技術の進歩のお蔭で命が救われ、重度の障がいを抱えながらも在宅生活ができる子どもが増えた。医療的ケア児の数は2016年には18,000人となり、10年前の人数から約2倍に増えた。また、中・高度な医療的ケアを必要としている重症児が増加傾向にあり、複数の障害を抱えたケースも多く、病態もそれぞれ複雑に影響している。 沢山の障がいを抱える息子の母親となってから、私の政治への思いがガラリと変わった。「政治は弱者のためにある」と頭ではわかっていても、本当に理解ができていなかった事に気付かされた。「息子が生きやすい世の中になれば、みんなも生きやすい国になる」と、どのような政策に携わる時でも、障がいを持った息子を基準に考えるようになった。そして障がいを抱えた息子が生きていく中でぶち当たる様々な障壁を取り除いていく事。それが結果として、同じ立場にあるお子さんや親御さんの進む道を切り開くことに通じる。そのような思いで取り組むようになった。 医療技術の進歩のお蔭で命を救っていただいた息子だが、障がい児・者を育む空気がまだまだ整っていないこの国において、成長と共にぶち当たる障壁は計り知れない。通園・通学に伴う受け入れ先や支援の問題等、細やかな問題の解決のためには、親がそれぞれの関係機関等に飛び回らなくてはならず、道を切り開いていくには時間と労力を要す。それらの改善のためにも医療的ケア児等コーディネーターの役割はとても大きい。また生活の場において多職種が包括的に関わり続けるインクルーシブ教育や、医療・教育・福祉の切れ目のない支援体制も重要であり、現在もそれらの構築に取り組んでいるところである。 色々な問題を乗り越え、今年の4月から息子は特別支援学校から小学校の特別支援学級(軽度知的障害)に転校することができた。医療的ケアを必要とする子どもたちが自宅から出られない状況を取り払うことや、同年代の子どもたちと触れ合う環境を整備することは、医療的ケア児の成長における可能性をより引き出す大切な環境であることを、今まさに身をもって感じているところである。 平成28年に新たに設置された認定資格に「摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士」がある。これからますます増加するであろう障がい児(者)の摂食・嚥下機能障害に、有資格者の需要が高まっていることは間違いない。 医療的ケア児を子にもつ親の願いは、「親亡き後」子どもが自分の力でしっかりと生きていけるようになることである。そのためにも、摂食嚥下リハビリテーションで、胃瘻ではなく自分の口から食べられるようになることは、「親亡き後」の息子の生命を繋ぐとても大切な事なのである。専門の先生方に助けて頂きながら、今後も地道に命を繋ぐためのトレーニングを続けていく。 医療的ケアが必要な子どもは福祉サービスに制限が多い。そのため、今でも親が付きっきりでケアをしなくてはならないケースが多く、地域での相談員やコーディネーターも不足していることから、親がケアで疲れた身体と時間の制約の中、情報収集し対応しなければならない現状がある。しかしながら、子どものケアのためには何よりも親が健康でなければならない。そういうことからも、親を支える地域支援の充実も常に必要と感じている。 医療的ケア児の親は誰でも、「親亡き後」を考えながら生きている。その気持ちに寄り添う環境の整備と支援がしっかりと整うことを願いながら、私も引き続き、政治の立場から環境整備に務めていく。 略歴 1960年9月福岡県に生まれる。1983年3月上智大学を卒業し、株式会社帝国ホテルに入社。その後、1987年4月岐阜県議会議員選挙に当選。 1993年7月第40回衆議院議員選挙で初当選。1998年7月郵政大臣、2012年12月自由民主党総務会長、2017年8月総務大臣・女性活躍担当大臣・内閣府特命担当大臣を歴任し、現在は2018年10月から衆議院予算委員長を務める。2017年10月第48回衆議院議員総選挙で当選9期目。 国の未来をつくる子どもと女性の問題に取り組んでいる。 著書 「国民のみなさまにお伝えしたいこと-ホンネで語る政治学」(PHP社)1996年 「だれが未来を奪うのか-少子化と闘う」(講談社)2005年 「みらいを、つかめ-多様なみんなが活躍する時代に」(CCCメディアハウス)2018年

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