日本重症心身障害学会誌
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O-2-D28 子どもの障害に心理社会的に適応してきた一事例
林田 政弘横井 輝夫
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2014 年 39 巻 2 号 p. 281

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抄録

はじめに 障害受容は価値転換を求め(Wright1960)、その心理過程にはstageの存在を前提としている(Fink1967,上田1980)。しかし障害受容論は、個々人の多様性を重視していない、障害の受容を患者や家族に強制することになる(中田1995)などの批判がある。このような背景から欧米では援助ケアを指す場合、障害への心理社会的適応という概念が用いられ(細田2009)、研究も生活を再編成していく個人の複雑な過程に向かっている(Parker2003)。しかし、これまでの研究は、臨床的な経験や主観に基づいていた(桑田2004)。そこで、時間軸上で多様性を可視化する複線径路・等至性モデルを用いて、価値転換はみられないが、子どもの障害に17年間心理社会的に適応してきた一事例を報告する。 方法 高等部2年生の重症心身障害児者の母に告知時、乳児期、幼児期、小学校時代、中学校時代、その後に分け、具体的な出来事とそのときの想いを聞く半構造化面接を2回実施した。分析はICレコーダーに録音した内容を逐語録におこし、子どもの障害に対する母の強い想いを抽出して時系列に並べた。その時系列に並べた想いを大きな意味のまとまりで区切り、母の言葉を残してラベル化した。 倫理的配慮 対象者へインフォームド・コンセントを行い、所属大学の倫理審査委員会の承認を得て実施された。 結果 心理社会的適応は、「重い障害をもつ子どもをもつ」に始まり、「自己の不幸に自己の意識が向かう苦しみ」「障害をもつ子どもの母として評価されるこんな生活いつまで続くの。もういや」「もっと私は私を生きたい」「しょうがないかな」「私は楽になった」「許して」を経過し、「この子のお蔭で私たち夫婦の関係は保たれた。感謝」に至った。この過程には、子どもの機能障害の進行と病態の重度化がみられた。 考察 この母は、障害受容の根幹である価値転換を経ず、17年間複雑な想いの変遷の中で子どもの障害に心理社会的に適応していた。

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© 2014 日本重症心身障害学会
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