千葉県立保健医療大学紀要
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第10回共同研究発表会(2019.8.28)
カロテノイドは生体内でのオートファジー調節因子となりうるか?
金澤 匠
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2020 年 11 巻 1 号 p. 1_75

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抄録

(緒言)

 細胞内タンパク質分解の主要経路であるオートファ ジーは,細胞内において一定量のタンパク質を常に分解し続けることにより細胞の恒常性維持に働いている.オートファジー活性の低下は異常タンパク質の蓄積や細胞のガン化等の原因となる.本研究は,オート ファジー促進作用を有する食品成分の探索を目的とし,動植物性食品に広く存在する色素であるカロテノイド類に着目して,4種類のカロテノイドについて肝臓及び骨格筋におけるオートファジー促進作用を検討した.

(研究方法)

 試験には6週齢のSD系雄ラットを用いた.投与す るカロテノイドには,カロテン類としてβ -カロテンとリコピン,キサントフィル類としてアスタキサンチンとゼアキサンチンの4種類を用い,50mg/kg体重となるように経口投与した.コントロール群には溶媒として用いた大豆油を同量投与した.肝臓及び骨格筋(腓腹筋)の採取は経口投与から2時間後に行った. 栄養飢餓によるオートファジー誘導の影響を排除するため,経口投与及び臓器採取はラットを絶食させずに 行った.各臓器におけるオートファジー活性の指標として,オートファゴソームマーカータンパク質である LC3とオートファジーの選択的基質であるp62をウェスタンブロット法により検出した.

(結果)

 LC3はLC3-I(細胞質型)がLC3-II(オートファゴ ソーム膜結合型)に変換されることでオートファジーの開始段階であるオートファゴソーム形成に働く.そのため,オートファジーが活性化されると,オートファゴソーム数の指標であるLC3-II量やLC3-Iから LC3-IIへの変換率を示すLC3-II/total LC3比の増加が見られる.また,p62はオートファジーにより選択的に分解されるため,オートファジーの活性化に伴い減少する.

 カロテン類の投与は,肝臓においてLC3-II/total LC3比を増加させたが,LC3-II量は増加させなかった.腓腹筋では,β -カロテン投与によりLC3-II/total LC3比及びLC3-II量の有意な増加が確認された.一 方,リコピン投与は腓腹筋におけるLC3-II/total LC3 比を増加させたが,LC3-II量は増加させなかった.

 キサントフィル類の投与は,肝臓においてLC3-II/ total LC3比を有意に増加させた.特にゼアキサンチン投与ではLC3-II量の増加も見られた.腓腹筋では,ゼアキサンチン投与によりLC3-II/total LC3比及びLC3-II量の増加が確認された.

 また,p62量は4種類のカロテノイドの内,アスタキサンチンを投与したラットの肝臓でのみ減少が見られたが,それ以外の条件ではコントロール群に対して差は見られなかった.

(考察)

 今回の結果から,ゼアキサンチンは肝臓及び骨格筋 におけるオートファゴソーム形成に作用し,オートファジー活性を促進すると考えられる.また,β -カ ロテンも骨格筋に対して同様の効果があると考えられる.ただし,両者ともオートファジーの基質である p62の量に差が見られなかったことから,今回のような投与後短時間では,基質タンパク質の分解量には影響しないと考えられる.また,アスタキサンチンは肝臓においてLC3-II量を増加させなかったものの, LC3-II/total LC3比の増加やp62量の減少を引き起こしたことから,ゼアキサンチンと同様に肝臓でのオートファジー活性を促進する可能性がある.

 以上のことから,β-カロテンやゼアキサンチン, アスタキサンチンはラットの肝臓及び骨格筋のオートファジーに対して促進因子として作用することが示さ れた.

(利益相反)

 本研究の内容に関連して申告すべきCOI状態はない.

(倫理規定)

 本研究は,千葉県立保健医療大学動物実験研究倫理審査部会の承認(2018-A04)を得た上で「千葉県立保健医療大学動物実験等に関する管理規程」に従って行われた.

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