千葉県立保健医療大学紀要
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平成29年度学長裁量研究抄録
地域包括ケアシステム構築に向けた在宅看護資源の現状と課題
─ 千葉県における在宅看護に関わる団体の調査から ─
成 玉恵
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2019 年 10 巻 1 号 p. 1_124

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抄録

(緒言)

 千葉県は,高齢者人口の増加率が全国で2番目に高く急激な高齢化が課題となっている.しかし,県内の医療・介護施設数および訪問看護ステーション数は全国平均を下回り,在宅療養者への対応は深刻化している.これまで,在宅看護全体の供給量と種類の充実をはかることを狙いに,在宅看護に関するNPO団体を探索・調査してきた1).その結果,二次資料から8団体の存在が明らかになったが,これらの団体の実態把握には及ばず,在宅看護の提供や看護資源としての可能性については不明であった.以上から,本研究では千葉県内の在宅看護に関するNPO団体の活動内容を明らかにし,地域包括ケアシステム構築に向けた示唆を得ることを目的とする.

(研究方法)

研究参加者:先行研究1)で抽出された8つのNPO団体のうち,研究の同意を得た2団体の看護職2名.

調査方法:半構成的面接調査を行った.

調査内容:在宅看護活動の現状,活動人数や職種,看護活動の実施で得られる効果と看護活動の継続で社会に貢献したいこと等であった.

分析方法:団体の活動を可視化するためロジックモデル2)を分析枠組みとした.面接内容は録音,逐語録にし,ロジックモデルの構成要素に関する記述を抽出,演繹的にモデル表を作成した.「アウトカム」に関する記述は帰納的に分類しカテゴリー化した.カテゴリーは意味内容を変えず「アウトカム」の定義に沿って表現した.「インパクト」は「アウトカム」を抽象化し概念的に表現した.

(結果)

研究参加者の属性:団体Aは看護師,年齢50歳代,女性,団体理事,訪問看護ステーション所長兼務であった.団体Bは保健師,年齢70歳代,女性,団体理事,多機能型事業所長兼務であった.

所属団体の概要:A,B共に県内で在宅精神療養者を地域で支援するNPO法人であった.団体Aは職員数16名,年間収益は約8千万円,主な活動はACTプログラムによる精神科訪問看護,精神相談支援事業等であった.団体Bは職員数65名,年間収益は約1億7千万円,活動は多機能型事業(B型福祉事業,グループホーム,訪問看護等)であった.

ロジックモデル表:「資源」は職員数,職種,活動予算,「活動」は事業,活動内容,「アウトプット」は,年間実績数をそれぞれ記載した.「アウトカム」は団体Aが【障害者が希望を持つ】【障害者が自分の病気に自分の意志で取り組む力をつける】等4つが抽出され,団体Bが【精神障害者が住み慣れた地域や家庭で安心して暮らせる】【精神障害者が自分らしく生きる】等3つが抽出された.「インパクト」は団体Aが【障害者が希望を持ってリカバリーのプロセスを歩む】【リカバリーの大切さを周囲に伝え実現する】等4つが抽出され,団体Bは【市民・専門家・当事者が共に活動して,障害者の自立した地域生活と社会参加を支援する】等2つが抽出された.

(考察)

 ロジックモデルの作成により2団体の活動内容が明らかになった.特に「アウトカム」は活動の実践内容を概念化することで,在宅看護活動の成果が可視化でき,「インパクト」は2団体共通して,障害者の地域での自立や地域生活,社会参加というキーワードが見られ,地域に貢献していることが明らかになった.以上から,地域の在宅看護活動は地域包括ケアシステムの構築において,看護資源として重要な役割を担うことが示唆された.今回の調査から結果を一般化することは難しいが,今後は多様な看護活動を追いながら,活動内容の評価や構造化を行う予定である.なお本研究の一部は日本地域看護学会第21回学術集会で発表した.

(倫理規定)

 本研究は,千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会 の承認を得て実施した(承認番号2018-08).

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