2021 年 53 巻 p. 01-15
本稿は,『玲瓏倡和』一巻にもとづいて明代知識人による散曲創作について考察している。ここに収める序や跋は,本書が楊慎及び彼と親しい人物との交流の記録であることを示している。では,なぜこのような書が編纂されたのだろうか。 元代散曲に備わる卑俗性や饒舌さが,明代散曲において影を潜めたことは,従来散曲文学の消長とみなされてきた。しかし,明代の知識人らは自分たちが持っている教養のなかで非知識人による元代散曲を分析し,卑俗性や饒舌さをある程度飼いならした作品を新たに作り出した。その意味では,通俗性と崇高なる部分とを併せ持つ明代散曲は元代散曲に比べ多声的である可能性が指摘できる。