史学雑誌
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斎藤実内閣期における北海道政治
災害対策と地域開発
井上 敬介
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2017 年 126 巻 10 号 p. 40-62

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抄録

本論の目的は災害対策を中心に、斎藤実内閣期における立憲政友会及び立憲民政党の北海道支部と北海道庁の動向を検討することである。
一九三二年の災害を機に、政民両党の北海道支部は対立から提携に転換し、「凶作水害善後策道民大会」を共催した。同会の宣言は、北海道第二期拓殖計画の問題と災害対策とを結びつけた。二大政党の対立に翻弄されてきた第二期拓計問題は、政民両党の北海道支部によって超党派問題として再確認された。道民大会実行委員は政民両党の北海道支部の関係者で構成された。道民大会実行委員は、道庁と協力して北海道の復旧対策に奔走した。超党派の道会議員は被災地を視察し、北海道選出代議士は政民両党の本部に復旧対策を訴えた。道民大会実行委員の最大の成果は、後藤文夫農相の北海道視察を実現させたことだった。後藤農相は災害状況を斎藤内閣に伝達し、食糧配給や多大な義捐金をもたらした。
北海道の復興対策は復旧対策と異なり、順調に進展しなかった。北海道選出代議士と道庁は凶作対策として、一億円の融資を高橋是清蔵相に要求した。道会と道庁は水害対策として、治水計画を第二期拓計から切り離そうとした。だが、高橋蔵相は前者を北海道更生資金(一〇〇〇万円)に置換し、後者も容認しなかった。これ以後、政民両党の北海道支部は、長期的な北海道開発構想を提示するようになった。一九三三年五月、政民両党の北海道支部は、第二期拓計の改訂を「第二次北海道更生道民大会」の「三大決議」として掲げた。道民大会実行委員による「拓殖計画改訂綱領」は、一九三五年の第二期拓計改訂運動の指針となる先駆的な北海道開発構想であった。
本論は、これまでの日本近代史研究で着目されてこなかった斎藤内閣期における地方政治の一側面を明らかにした。

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