ウイルス
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植物ウイルスの虫媒伝染機作に関する研究 (第4報)
萎縮病ウイルス感染稲の代謝異状
吉井 啓
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1958 年 8 巻 5 号 p. 394-405

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抄録

本報は萎縮病ウイルスに感染した水稲には, その各種代謝に異状が表われるか否かを観察した結果の一部を取纒めたものである. これは本病媒介虫ツマグロヨコバイの代謝現象を考察する上の資料に供するのが目的である.
(1) 萎縮稲は呼吸率 (Qo2) 及び呼吸商 (RQ) が共に健全稲より高く, 呼吸は旺盛になる.
(2) 水稲の呼吸系の終末酸化酵素にはAscorbic acid oxidaseも関与しているが, この力価は萎縮病感染によつて少しも低下しない.
(3) 萎縮稲の呼吸代謝の増高は酸化的燐酸化と共軛してをり, 有機燐酸エステル化は健全稲より増大して来る.
(4) 萎縮稲のPhosphataseの力価は健全稲より大きい.
(5) 水稲は罹病に伴い無機燐は激減するが有機燐・核酸燐は著しく増加している. 尤も脂質燐の増加は僅少であり, 蛋白燐には変化が少いので全燐量としては僅かの増加である.
(6) 水稲の核蛋白質及びRNA・DNAは萎縮病ウイルスの侵入を受けても質的並に量的にも余り顕著な変化は見出しえない.
以上の観察結果よりすると, 水稲は萎縮病に感染しても呼吸代謝, 燐酸代謝は少しも正常稲に劣らず寧ろ稍旺盛になると考えられる.

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