本論文は,現在の土木を取り巻く閉塞的状況の根源を,土木事業と民衆とのかかわりの歴史の中に探り,土木の新しい展開の方向性を示したものである.まず,社会の土木事業に対する嫌悪感にも似た批判の原因として,日本の土木事業がどの時代においても権力者側の要求に沿って行われてきたこと,および民衆が共感し合意した公共の理念が形成されて来なかったことを述べる.また,明治以降,西欧的自然観のもと急速な社会基盤の整備が行われ,無制限に資源を採取し続けた結果,地球的規模での自然生態系の破壊が進行していることも土木に対する社会的評価の低下の要因として論述する.これらの閉塞的状況から土木が脱却するための方向として,土木技術者としての公共哲学の確立と西欧的自然観から日本人の自然観への回帰の必要性を示す.