土木学会論文集G(環境)
Online ISSN : 2185-6648
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環境工学研究論文集 第50巻
河川の水質環境および物理環境がヒゲナガカウトビケラの遺伝的多様性に与える影響
八重樫 咲子渡辺 幸三大村 達夫
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2013 年 69 巻 7 号 p. III_489-III_494

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抄録

 河川水生昆虫ヒゲナガカワトビケラ(Stenopsyche marmorata)の生息環境の特性が遺伝的多様性に与える環境選択の影響を評価した. 宮城県中南部地域4水系30地点と本州6地点で採取したヒゲナガカワトビケラをマイクロサテライト8遺伝子座でシェノタイピングした. 遺伝子座ごとに進化シミュレーションに基づく中立進化を帰無仮説とした仮説検定を行い, 3つの環境選遺伝子座を同定した. これら3つの環境選択遺伝子座における平均的な遺伝的多様性と環境指標の偏相関分析を行った結果, ヒゲナガカワトビケラ集団内の平均対立遺伝子数は餌資源の量(SS, FPOM, 付着生物膜のクロロフィルa濃度, FBOM)と河床環境の多様さ(石礫の粒径の分散, 堆積土砂の均等係数)と有為な正の偏相関を示した. この結果は, 餌が豊富で多彩な河床環境を有する地域では, 適応度の低い対立遺伝子・遺伝子型が定着し, 集団内の遺伝的多様性を高めていることを示唆する. ただし, BODと平均対立遺伝子数は有為な負の相関を示していることから, 水質の悪化は遺伝的多様性の悪化を引き起こす可能性も考えられる. 本研究の結果は, 環境選択遺伝子座を用いることで, 人為的河川環境の改変が水生生物の遺伝的多様性に与える影響を評価できる可能性を示す.

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© 2013 公益社団法人 土木学会
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