日本補綴歯科学会雑誌
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はたして大臼歯は歯列維持のために必要か?
KäyserのShortened Dental Arch Conceptに関する文献的考察
菅野 太郎弘岡 秀明木村 幸平
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2004 年 48 巻 3 号 p. 441-456

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抄録

目的: 欠損部位を補綴するという根源的なことに科学的根拠を示す臨床研究を調査すると, 系統だった臨床研究は皆無である. 歯科治療における補綴すべき歯の数は, 形態学的・運動力学的観点というある一側面のみではなく, もっと多角的側面から決定すべきであると考えられる.
研究の選択: 今回, この考えに対する答えを示唆するであろう, Shortened dental arch (SDA) conceptを提唱するKayser (オランダ) の一連の研究に関するReviewを行った.
結果: Kayserらは, 横断研究より, 対をなす対咬臼歯数3~5ユニットのSDAは, 歯の移動, 咀嚼効率, Temporomandibular disorder (TMD), 歯周組織, 患者の満足感に対して臨床的な問題はなかったと報告し, 前歯と小臼歯は生涯を通じてなくてはならないものであり, 最良の予防と修復を行う価値があると考察している. また, 長期の縦断研究より, SDAにしてから5年以内において, 咬合の安定に関する指標に若干の変化がみられるものの, 観察期間を通じて咬合や患者の満足感は安定していることから, この咬合の変化は, 新しい平衡を導くための適応によるものであると報告し, SDAはそれ自体, 咬合の崩壊を引き起こさないと考察している.
結論: Kayserらの一連の研究により, 欠損補綴に対して歯列を短縮して対応することは臨床的に肯定されることが示唆された. よって, 症例に応じて治療しないという治療の選択肢も補綴学的に追加されうるのではないであろうか.

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