日本補綴歯科学会雑誌
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義歯に対する執拗な訴えおよび口腔内の違和感に苦慮した口腔心身症の一例
尾口 仁志中村 善治福島 俊士森戸 光彦
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2001 年 45 巻 3 号 p. 397-402

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抄録

症例の概要: 患者は51歳女性で初診は1987年である. 主訴は「舌が痛い」で5カ月前に下顎義歯を装着してる. 以後, 舌, 歯肉全体にわたる持続的なヒリヒリ感が続き義歯調整を繰り返したが症状軽減せず, 本学附属病院を受診した. 口腔外科にて舌痛症の診断のもと治療を行っていたが, 義歯に対する訴えが強いことから補綴科に依頼された. しかしながら, 精神的関与が強く伺われることから, 補綴科担当医より心身医学的アプローチの診療依頼を受けた. 患者は几帳面で義歯に対する細かい訴えをした. 症状と精神的関与とのかかわりを説明したがまったく聞こうとはせず, さらに薬物投与も拒否された. 1998年, 患者は身体的機能の衰えから通院が徐々に困難になってきたことを契機に, 今までの義歯に対する “こだわり” について話し始めた. 完壁主義であることから少しでも気になることがあるとイライラすること, 12年にわたる補綴科での治療でも症状が軽減しなかったことなどから精神的関与を認めるようになった.
考察: 本例は小さい頃からの生活環境, 几帳面な性格などが加重され, 歯科治療を契機として発症したものと考えられた. 歯科的訴えに対する根気強い対応, 気づきを得るまでの徹底した傾聴が本例を緩解させたものと考察された.
結論: われわれは13年にわたり義歯に対する執拗な訴えおよび口腔内の違和感に苦慮した口腔心身症の一例を経験した.本例を通し心身医学的アプローチの重要性が認識された.

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