分析化学
Print ISSN : 0525-1931
生物体内燐酸化合物の分離ならびに定量について
吉川 春寿
著者情報
ジャーナル フリー

1958 年 7 巻 5 号 p. 320-333

詳細
抄録

今回は定量法および分劃法の題目について取上げた.生体内の燐酸化合物の種類は雑多であり,なお現在未知の化合物竜すくなくないと思われるので,燐酸化合物の分離法や定量法には未解決の問題がはなはだ多い.
滴定法とか,比色法とか,燐酸化合物の定量には多数の定量法が提出されているが,生理化学的の研究のためにはどのようなものが適しているか選択するのは,そう容易なことではない.さらに要望されているのはその分劃定量法であるが,昔からおこなわれているのは,加水分解の難易とか,各種熔媒に対する溶解度の差異による分劃沈澱とかによる方法であって,これらには不満足な点が多い.もちろん,研究目的によっては,これで十分であり,あるいはまたこの方が適している場合もあるが,無批判に従来の方法を踏襲すると重大な誤りをおかすおそれがあるから,このような方法にたいしては十分な検討を加えておかなくてはならない.
酵素を利用する定量法は特異性においてすぐれているので,ある特定の化合物の定量をしたり,またその生体内での行動を追求するにはもっとも信頼すべき結果をあたえるものとして期待される.ただ酵素標品の純度とか,その安定度とかにいろいろ注意すべき点があるので,これを応用するにあたっては,十分に経験者の指示を受けなければならないとおもう.
最近,さかんにもちいられるようになったクロマトグラフ法は分劃法としてすぐれており,ことに32Pを使用する場合にはこれが絶対に必要となることがすくなくない.しかし,なにぶんにも使われはじめてから年月をへていないので,改良すべき点,検討すべき点がはなはだおおく,これまた経験者の知識が貴重な示唆をあたえるであろう.
この意味でこのシンポジウムで討議されることが土台となって,多くの研究者によって将来,燐酸化合物の生理学的意義に関する研究がわが国で大いに発展するよう,希望するのである.

著者関連情報
© The Japan Society for Analytical Chemistry
前の記事 次の記事
feedback
Top