化学分析術は近年著しく発展した.しかしその発展は,主として方法の発見と装置の改良によるいわば物理的進歩にもとずくものであって,その分析法の根底となるべき化学の進歩によるものではない.いいかえると,化学分析のどの部門にも測定法と基礎化学との跛行が見られるのてある.この基礎化学のおくれは,実は無機化学の足ぶみによるものであり,無機化学の停滞は,畢竟,無機化学が今もなお十九世紀的な組成式の化学の域を脱し切れないからである.現在の無機化学が一日も早く構造無機化学にまで進化しなければ,分析化学の真の発展はあり得ないのてある.