1972 年 21 巻 11 号 p. 1456-1462
河川や海域の底質スラッジ中の金属類の定量をけい光X線分析法で検討した.試料の基質の相違によって,測定されるけい光X線強度は変動するので,これにともなう補正が必要である.被測定元素のけい光X線のピーク強度とそれに近いバックグラウンド中の適当に選ばれた散乱線の強度は基質や他の含有金属類により同様の吸収・励起効果を受けることが期待され,両者の比をとることによって補正することを検討した.銅,亜鉛,鉛,クロム,ヒ素の分析に好適な散乱線を選択することにより1~1000ppmの範囲の検量線が得られた.スラッジ中の銅のくりかえし分析で,本法と原子吸光法による平均値(x)および標準偏差(s)を比較した結果,前者はx=345ppm, s= 5.25ppmであり,後者はx=346ppm, s=10.95ppmであった.その他の金属類の定量においても同様な結果が得られ,本法によるマトリックス効果の補正は良好であった.さらに,他の分析法に比べて試料の前処理操作の簡易性,迅速性はすぐれており,ほとんどもとの性質を失わずに分析できる点から精度的にも良好な分析法といいうる.