2007 年 33 巻 p. 183-194
広島県神石高原町の豊松村民俗資料館に,明治10年代後半に作成された218軒分の『家屋台帳』が残っている。本研究は,この『家屋台帳』特にそこに収められた間取り図の調査と現存する民家の実測調査を行うことにより,この地域における19世紀後半の民家平面の特徴や時代的変遷過程などを明確にしようとするものである。本報告では旧豊松村の民家が,囲炉裏のあるナカノマを中心に構成される「ナカノマ型」から床の間を持つ主室と次の間で構成される「続き間型」に変化していったこと,この変化が岡山県に接する村の東部から西部へ段階的に広がっていったことなどを明らかにした。また,「ナカノマ型」「続き間型」それぞれに理想型があり,その理想を目標に一般の民家が建てられていたと考えることで,間取り図に見られる民家平面の多様性を理解できることを述べた。