住宅総合研究財団研究年報
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戦後日本の住宅形式形成過程におけるアメリカ近代住宅の影響
日本人に適した住宅原型提案への準備研究
藤木 忠善前野 尭水沼 淑子田中 厚子志村 直愛金子 加奈恵デルパッゾ ロバート
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1995 年 21 巻 p. 253-264

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抄録

 明治以来の近代化の中で,欧米の影響と伝統との多様な結合を見せつつあった日本の住宅は,戦後になって極めて短期間のうちに伝統を捨て,現在のようなリビング・ダイニングルームと個室で構成される単純な住宅形式に収れんした。その要因を戦後期アメリカの住宅近代化の強い影響であると考え,本研究では,その情報媒体と影響を被った点を明らかにし,それの持つ問題点について考察することを目的とする。そして,日本人に適した住宅の原型提案に結びつけることを目標としている。当時のアメリカの住宅近代化の状況について調査し,その情報が大量に流入した戦後の20年間におけるアメリカ近代住宅について紹介・推奨した文献,関連イベントの記録,設計関係者への面接など多種の媒体について調査した。そのうえで当該期の建築家の住宅作品を中心に,その平面計画とリビングルームにおけるアメリ力近代住宅の影響を研究考察した。その結果,畳の駆遂と椅子・ベッドの生活,接客・団らんのためのリビングルームの推奨,玄関の簡素化,台所の昇格,個室化,浴室・洗面所・便所の一体化などがアメリカを模範として行なわれたことが明らかになった。そのような変化のなかで,玄関や縁側などの伝統的な中間領域の消滅,子供室の孤立化,浴室の密室化などが生し,接客時や家族間のコミュニケーションとプライバシー調節の様態が変化したことを指摘した。更に,リビングルームについては家具配置の意識をアメリカの場合と比較し,その相違について研究考察した。以上の研究から,当時の性急な住宅形式の転換は,戦後期の特殊な状況から生み出されたものであると理解される。したがって,その影響下に形成され変化しながら発展してきた現在の日本住宅の形式も,便宜的なものに見え,日本人にとって最終的なものとは考えにくい。ここで再び和洋の新しい融合が求められる。

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© 1995 一般財団法人 住総研
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