住宅総合研究財団研究年報
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建築物の性格が都市の聴覚的景観に及ぼす影響に関する基礎研究(1)
神田地域における5つの道を中心に
鳥越 けい子庄野 泰子田中 直子
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1990 年 16 巻 p. 209-221

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抄録

 これまでの都市や景観の研究は,視覚的なもの,形あるモノをその主な対象とし,まちの「雰囲気」や「活気」といつたソフトな側面へのアプローチは少なかった。しかし都市の景観や「まちなみ」を,私たちは実際には視覚だけではなく五感のすべてを含む諸感覚の統合としてとらえている。こうした状況を踏まえ本研究は,都市を全感覚的にとらえる端緒を開くため,景観研究のなかでも聴覚的側面から都市の「まちなみ」をとらえなおそうとするものである。「建築物の性格が都市の聴覚的景観に及ぼす影響」をテーマとする第1年度として本研究は,1)「建築物」と「聴覚的景観」との関連を扱うための研究の基本的枠組を設定すること,2)建築物が聴覚的景観に及ぼす具体的影響を把握しその実態を分析すること,をその基本的目的とした。その目的達成のため,神田地域の5つの地区をケース・スタディとして取り上げ,それぞれの地区の建築物と聴覚的景観の特徴と両者の関連を分析,考察するのが本研究のとる方法である。全体は,対象地区の聴覚的景観の全体像の把握を主眼とした第1期と,その調査結果を踏まえて個々の建築物とそれらの面する道の聴覚的景観とのより具体的な関連を考察した第2期に分けられる。研究の主な成果としては:第1期には,1)「時間軸」「受容軸」「上下軸」といった聴覚的景観の特徴を担う3つの軸の存在を確認し,2)聴覚的景観を構成する5種類の音とその相関関係を明らかにし,3)建築物と道の聴覚的景観の関連を考察するための3つの類型を把握した。第2期には,1)建築物の形態と道の音環境との基本的関連の枠組とその実態を明らかにし,2)建築物の用途がそれが誘導する人々の活動を介し,その建物の発する音を左右する大きな要因であることを確認し,3)建築物の聴覚的特徴が各地区の聴覚的景観にどのように寄与しているかその分析手法の手掛かりと関連の一端を明らかにした。

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© 1990 一般財団法人 住総研
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