2023 年 38 巻 1 号 p. 21-38
近年,研究活動の国際化,オープン化に伴って,研究成果の帰属が不適切に取り扱われたり,研究成果を非公開にすることが要求されたりする等,外国からの不当な影響による利益相反・責務相反や技術流出等のリスクが顕在化している。
その対策の1つとして,2021年4月に統合イノベーション戦略推進会議にて「研究活動の国際化,オープン化に伴う新たなリスクに対する研究インテグリティの確保に係る対応方針について(以下,政府の対応方針)」が決定された。研究インテグリティとは,研究の健全性・公正性のことであり研究者が自律的に確保するものである。
本稿では,政府の対応方針が決定されるまでの経緯,及び,その概要について述べる。政府の対応方針の概要では,研究インテグリティの確保のために,研究者,大学・研究機関,公的資金配分機関にどのようなことを求めるのか,及び,それを実現するために政府がどのような支援をするのかについて説明する。続いて,政府の対応方針で求められていることに対する大学・研究機関の取組事例等を紹介する。また,欧米等,我が国と価値観を共有する国の動向を説明する。さらに,諸外国の動向及び我が国の現状を踏まえた上で,我が国において国際的に調和した研究インテグリティの自律的な確保の仕組みを構築するために,政府としては,アカデミアとより一層の連携をしていきたい等,今後の展望について述べる。