研究 技術 計画
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企業経営と研究開発の関係に関するシミュレーションの試み : その8 日本におけるメーカー論理主導型経営
二宮 和彦
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1999 年 12 巻 3_4 号 p. 193-205

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抄録

製造業企業の経営を先導する三論理(資本の効率を重視する銀行の論理、ストックよりもフローに関心のある商社の論理、および無形の知的財産を含むストックの効率をまず考えるメーカーの論理)の一つとされるメーカー論理の位置づけが日本の企業内でどのように推移したかを、化学企業の実態を中心にその技術戦略の変遷を追跡することによって考察した。その結果、日本経済が高度成長していた期間は商社論理指導型経営が一般的であったが、安定成長に移行する遷移期間中に、当時頻発した外部経営環境激変による経営危機を技術的対応により成功裡に克服する過程で、メーカー論理主導型経営に切り替わったものと推定された。この時期にメーカー論理はまず既存事業の生産技術力に依拠して経営を主導したが、その後安定成長期に入ってからは各企業とも新生町産業分野進出に経営の重点を移し、メーカー論理も先進技術の開発力を駆使して経営を主導する方向に移ったことを指摘した。今後は先進技術の自社開発力が企業存続の拠りどころになるとともに、経営も研究開発主導型経営に移行するものと推定した。次にメーカー論理主導で安定成長に移行する遷移期間中に実行された投資活動を主要目的別に分類して略述し、それぞれの投資および投資効果が経営諸指標やシミュレーションモデルの各パラメターに及ぼす影響を調べた。その結果を、高度経済成長期に一般的であった商社論理主導型経営における実績の分析結果と比較しこれら2つの経営方式がそれぞれ継続した場合に起こる企業体質の変化は、多くの側面において互いに相反する方向に向かうことを示した。

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1999 研究イノベーション学会
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