目的:若年性認知症者の家族は,壮年期にあり,先がみえない介護生活と自分の将来の展望との間にジレンマが生じやすく,退院先に関する家族の意思決定は老年期認知症よりも困難だと考えられる.そこで本研究では,在宅から精神科に入院した若年性認知症者の退院先に関する家族の意思決定の構造を明らかにする.
方法:A県に居住する若年性認知症者(50~60歳代)の家族7人に「精神科病院の入院から退院に至るまでの家族の生活変化」「退院に向けての悩みや迷い」「退院先の決め手」などについて,半構造化面接を実施し,質的帰納的分析を行った.
結果:家族の退院先の意思決定は,【精神科入院による限界からの解放】がされ,【若年性認知症者を引き受けざるを得ない】覚悟を前提条件とし,【現実的に在宅を引き受けられるかの見極め】と【自分の生き方と若年性認知症者との向き合い方】を行き来しながら統合することで生じていた.さらに,【決定を後押しする周囲の環境への認識】が【現実的に在宅を引き受けられるかの見極め】と【自分の生き方と若年性認知症者との向き合い方】に影響を与えていた.
考察:家族は,精神科入院により,若年性認知症者と離れたことで,老年期に向けた自分の人生と若年性認知症者との向き合い方を新たに意味づけ,退院先を意思決定していた.また,決定を後押しする周囲の環境を認識することによって,意思決定に伴う責任の重さを緩和していた.