本稿では、日本語の依頼における二つのタイプの可能表現(①「〜ていただける」系、②「~できる」系)を考察対象とし、①は「聞き手の意志」を直接尋ねず、間接化して丁寧度を上げる役割を、②は依頼に必要な「話し手受益:聞き手与益」を含意させるための要素としての役割を各々が果たしているということを主張した。また、話し手が望む出来事(依頼内容)が実現するための聞き手側の2つの条件―「(潜在的)可能性」と「意志性」を提示し、①が十分な丁寧さを保ちうるのは、間接的に聞き手の「(潜在的)可能性」と「意志性」の両方を含めて問う形を取っているためであり、②が丁寧さに劣るのは、聞き手の「(潜在的)可能性」のみを尋ねる(「聞き手が実現可能なら、(聞き手は)行為を実行することが道理である」という含意を持ちやすい)形を取っているためであると主張した。