宗教研究
Online ISSN : 2188-3858
Print ISSN : 0387-3293
ISSN-L : 2188-3858
論文〔特集:宗教と経済〕
ユダヤ教の経済観念
正しい道理の富
市川 裕
著者情報
ジャーナル フリー

2017 年 91 巻 2 号 p. 27-51

詳細
抄録

ユダヤ人は近代西欧の市民権取得時において、既にブルジョア的経済倫理を身に着けた成熟した経済共同体を形成した。マルクスはこのことを平日のユダヤ人の経済観念として理論化した。では、この平日のユダヤ教の経済観念とはどのように形成されたのか。本論は、ラビ・ユダヤ教の啓示法が、時間的聖性を厳守し聖と俗を厳格に分離する宗教共同体を形成していたことが彼らの経済観念をもたらした原因と捉え、ユダヤ教の行為規範であるハラハーがユダヤ人の日常の商業活動に与えた意味を明らかにした。聖書では、利子取得は、弱者に対する強者の不法行為とされたが、ミシュナでは商取引の不正行為の一つと理解された。中世以降ではマイモニデスが無利子の金銭貸与は貧者に対する喜捨より優れた行為とみなし、シュルハン・アルーフでは、ついに同胞でも商行為での金銭貸与は危険負担を伴うがゆえに利子取得は許されるという合理的解釈に至る。これによって二重道徳は解消されたのである。

著者関連情報
© 2017 日本宗教学会
前の記事 次の記事
feedback
Top