日本土壌肥料学雑誌
Online ISSN : 2424-0583
Print ISSN : 0029-0610
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放射性セシウム捕捉ポテンシャルから推定されるKd値と実測Kd値との誤差要因の解明
宇野 功一郎中尾 淳 奥村 雅彦山口 瑛子小暮 敏博矢内 純太
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2023 年 94 巻 5 号 p. 376-384

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抄録

放射性セシウム捕捉ポテンシャル(Radiocesium interception potential; RIP)は土壌や鉱物中に存在するフレイド・エッジ・サイト(Frayed edge site; FES)量の指標として開発され,土壌が放射性セシウムを吸着する能力の指標として広く用いられてきた.ただし,土壌中での放射性セシウムの動態を予測するパラメータとして活用する場合の制限について十分に検討されてこなかった.そこで本研究では風化促進させた黒雲母を用いて,まずRIPを測定した.さらに同じ風化黒雲母に対して液相組成を大きく変えた条件で137Csの吸着試験を行い,平衡時の固液分配係数(Kd)を求めるとともに,RIPと液相中のK+またはNH4+濃度を用いてKdの推定値を算出し,実測値と推定値とを比較した.その結果,RIPから算出されたKdの推定値は実測値を常に下回っており,特に液相中のK+またはNH4+濃度が増加するほど過少評価となった.そこでRIPまたはKdを実測した際の液相中での黒雲母の膨潤状態をXRDにより調べたところ,RIP測定時には大部分の構造が1.4 nmに膨潤していた一方で,Kd測定時には層間は収縮傾向にあり,K+またはNH4+濃度が大きいほど1.0 nmに収縮する割合が増加していた.Kd測定時における液相組成と連動した風化雲母の膨潤状態の変化は見落とされがちだが,Kdの変動要因として重要であることが強く示唆された.

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© 2023 一般社団法人日本土壌肥料学会
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