日本土壌肥料学雑誌
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毛状根を用いたモデル実験系による植物根の鉄欠乏に対する応答機構の解析
新町 文絵長谷川 功矢崎 仁也
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1992 年 63 巻 2 号 p. 202-209

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抄録

植物に対し根圏環境ストレスが負荷されたとき,根はそれに対して何らかの応答をしていることが考えられる.そこで,環境ストレスの一つとして鉄欠乏を対象とし,鉄欠除ストレスの負荷に対して植物がどのような影響を受けるか,その実態を明らかにするとともに根がどのような応答をするかについて,形質転換植物根である毛状根を利用して解明することを試みた.その結果,キュウリ個体植物は鉄欠除ストレスの負荷に対する一つの応答としてリボフラビンを分泌し,その分泌量は体内の鉄濃度と負の相関があり,体内鉄濃度の低下により増大することが確認された.それには,まず鉄欠除処理により体内鉄濃度が低下し,それに伴い根中のリボフラビン濃度が高まって体外に分泌されるという図式が成り立つことが示された.次に毛状根についても同様の検討を行ったところ,毛状根でも鉄欠除処理培養により体内鉄濃度が低下し,それに伴って体内のリボフラビン濃度がしだいに上昇するとともに,体外にリボフラビンを分泌することが確認された.しかも,体内鉄濃度とリボフラビン分泌量との間にはきわめて高い負の相関が認められ,毛状根の鉄欠除ストレスに対する応答は,個体植物の場合とほとんど同じで,この作用機作を解明するうえでの根のモデル実験系として利用できる可能性が示唆された.さらに,鉄欠除処理によって分泌されたリボフラビンなどを含む水耕液や培地には難溶性鉄の溶解能がないことが確認されたことから,毛状根を用いて根による難溶性鉄の溶解能についてのモデル実験を行ったところ,根の存在によって難溶性鉄が溶解し,しかも,あらかじめ鉄欠除処理培養した毛状根は難溶性鉄の溶解能が著しく高いことが認められた.これらの結果から,鉄欠除により誘導される鉄溶解機構は根に存在し,植物対外に分泌されるリボフラビンは鉄溶解物質としてではなく,鉄溶解機構が作動したときの産物であると推測した.

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© 1992 一般社団法人日本土壌肥料学会
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