北里大学一般教育紀要
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原著論文
ヒューマニズム教育にみられる道徳的価値
──ヴィットリーノ・ダ・フェルトレの教育から学ぶもの──
川井 陽一
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2012 年 17 巻 p. 167-182

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抄録

 新しい学習指導要領の改訂の基本方針の第一に、⌈教育基本法改正で明確となった教育の理念を踏まえ⌈生きる力」を育成すること⌋が掲げられている。さらに⌈生きる力⌋を支えるために、確かな学力、豊かな心、健やかな体の調和のとれた育成を重視し、併せて、⌈生きる力⌋の育成を図るために、道徳教育の充実が必要とされている。
 ギリシア・ローマの古典を重視し、同時に篤い宗教心と健やかな体の調和のとれた発達を目指すヒューマニズム教育は、人格の陶冶と深く関わるテーマであり、人間が人間であるために、あるいは人間が人間になるためには何が必要か、よりよく生きるとは何かを追求する内容を含んでいる。ヒューマニズム教育が目指す知・徳・体の調和のとれた人間形成は、教育基本法第 2 条の⌈幅広い知識と教養を身に付け、真理を求める態度を養い、豊かな情操と道徳心を培うとともに、健やかな身体を養うこと」と符合している。
 西洋教育史において重要な役割をもつヒューマニズム教育、さらには、ヒューマニズム教育の確立者のひとりであるルネサンス期イタリアの教育者ヴィットリーノ・ダ・フェルトレの教育を考察することにより、「よりよい生き方を求め実践する人間の育成を目指し、その基盤となる道徳性を養う教育活動⌋と定義される⌈道徳教育⌋に参考となるものを得たい。
 またヒューマニズム教育そのものから、さらにはヴィットリーノの教育活動から、道徳教育のみならず、生徒指導について、加えて教育の体現者としての教師のあり方について学ぶべき点を見い出すことができる。教員については、教育基本法第 9 条において「自己の崇高な使命を深く自覚し、絶えず研究と修養に励み、その職責の遂行に努めなければならない」と規定されている。ヴィットリーノの教育者としての姿勢は、この教育基本法第 9 条そのものであり、教員養成においても大いに参考になる点が含まれている。
 ヴィットリーノ・ダ・フェルトレの教育を中心に今日においてもなお意義を持つと思われるヒューマニズム教育にみられる道徳的価値について考察したい。

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