本論は保育所低年齢児の間に児られるかみつき行動の原因を明らかにし、その予防の方策を提起することを目的としている。1, 181事例に及ぶかみつき行動の発生時間、場所、状況及び動機の検討と分析によって、当行動の原因の一端が、過密もしくは人的密度の濃さにあることが示された。事例の91%は保育室か他の屋内の場所で生じており、このことは、生態学における「密度効果」を連想させるものである。したがって、かみつき行動を予防するためには、密度を緩和することが重要であり、とくにかみつきの76%が発生する午前中には、子どもたちは戸外で過ごすようにしなければならない。こうした「生態学」的分析とは別に、論者は現在かみつき児に対する保育者の対処について検討をすすめている。保育者の対処の71%は注意と叱責であるが、かみつきの原因や子どもの年齢を考慮すると、注意や叱責は必ずしも妥当ではなく受容こそが本来期待されるものと言えよう。保育者自身、受容が好ましく求められるものであると考えているかに見えるにもかかわらず、かみつきという臨界的場面において保育者はかみつき児の行動を受容することができないのである。ここに、保育者が考える受容の何たるかをさらに究明することが強く求められるのである。