多文化関係学
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論文
日本人学校における教員のトランスナショナルな教育実践
グアムの在外教育施設を事例に
芝野 淳一
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2018 年 15 巻 p. 35-49

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抄録

近年、ナショナルな教育を再生産する場として機能してきた在外教育施設に、国際結婚家庭や永住家庭など多様な背景を持つ子どもが在籍するようになっている。本稿は、こうした在外教育施設において、教員がいかなる教育実践を創出しているのか、またそうした実践にはどのような可能性と限界があるのかについて、グアムを事例に検討するものである。その際、在外教育施設の教員を「移動する人々」と位置づけ、トランスナショナルな視角よりかれらの戦略的な教育実践を分析した。結果は3 点にまとめられる。(a)教員は「グアムで育ってきた/育っていく子どもに日本国民としての資質を育成するための教育を実践する」というパラドキシカルな状況に直面し、授業運営や生徒・進路指導をめぐる葛藤や困難を経験していた。かれらはそれらに対処するために「日本」と「現地・現場(グアム)」の二重の準拠枠を用い、双方の社会や文化を視野に入れたトランスナショナルな教育実践を編み出していた。(b)二重の準拠枠を身につけた教員は、グアムでの経験を参照しつつ赴任前の日本における教育実践を相対化したり、日本の学校教育をクリティカルに考察したりするようになっていた。(c)一方、こうした教員の取り組みの背景には教育実践の個人化や帰国後の再適応をめぐる困難や不安が存在していた。最後に、本事例の知見が在外教育施設に関する研究や日本の学校現場に与える示唆を述べた。

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