2015 年 12 巻 p. 89-103
本研究は、中国帰国者三世にあたる高校生たちが地元の大学生とともに取り組んだ音楽をテーマとする表現活動の事例分析を通じて、生徒たちとコミュニティとの相互的な変化のプロセスを明らかにし、言語的・文化的多様性を生きる希望を支える学びについて考察するものである。高校生たちは、曲づくりを通じて表現される自分らしさに葛藤しながらも、その背景にあるコミュニティ間の関係性をめぐる問題に目を向け始める。事例分析を通じて、曲づくりをツールとしてその関係性を変化させようと試みていくことが、自分たちの未来をつくる学びへつながっていくというプロセスを明らかにした。自らのルーツに関する知識やロールモデルとの出会いにとどまらず、自分たちが生きるコミュニティが変わりうるものであり、自らもまたその変化を担う主体であるという気づきをもたらす実践が、言語的・文化的多様性を生きる学びにおいて重要である。