2022 年 68 巻 3 号 p. 178-187
本稿の目的は,ヴァイマル期ドイツで閉架式民衆図書館を主張したことで有名なヴァルター・ホーフマン(Hofmann, Walter.)の教育論を明らかにし,いかなる目的から閉架式民衆図書館が主張されたのか,その論理を解明することである。ホーフマンの教育論を検討した結果,彼が同時代ドイツの都市化・工業化に対して危機感を抱いており,民衆をフォルクとして教育するために,外部と隔絶した空間と教養財が必要であるとみなしていたことが判明した。この教育論が,閉架式図書館の実践に結びついていた。閉架式図書館では,ホーフマンが良書とみなした図書を所蔵し,図書館員に対しては対話や読者カードを通して利用者について知悉することが求められた。しかし,この実践は,被教育者の主体性を認め得ない教育実践に陥る危険性を有していた。