社会経済史学
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1930年代アルゼンチンにおける金融制度改革 : 周辺国における中央銀行の創設とイングランド銀行の役割
佐藤 純
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2008 年 73 巻 5 号 p. 465-484

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抄録

1930年代半ば,アルゼンチンにおいて中央銀行の創設と市中銀行の整理・統合を内容とする包括的な金融制度改革が実行された。従来の研究は,この改革に当たってアルゼンチン政府がイングランド銀行から金融アドバイザーを招聘したことに注目し,同行の果たした役割を強調してきた。すなわち,同行が理想とする政府から独立した中央銀行が創設され,放漫な経営を行っていた市中銀行に対しても厳格な規制が課されたという解釈が示されてきたのである。しかし,当時のアルゼンチンの政策主体の視点にたって検討を行った結果,上述の解釈とは異なる事実が明らかとなった。第1に,アルゼンチン中央銀行は財務省組織委員会を通して政府の統制下におかれることとなり,イングランド銀行が理想とする政府からの独立性は保障されなかったということ,第2に,市中銀行改革の実態は改革というよりも,公的資金注入による大手商業銀行の救済にすぎなかったこと,以上である。このように,イングランド銀行がアルゼンチンの金融制度改革において果たした役割は,従来の研究が指摘しているように実効力のあるものではなかったことが明らかになった。

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