2009 年 58 巻 3 号 p. 2-14
<文脈>問題は、「学びからの逃走」という事態の核心である。実体・非実体の二元論ではなく、「掘り起こす」ものとして<文脈>を捉えていかなければ、状況に切り込めない。世界は言語以後であるという一元論を前提とした上で、「外部」をいかに引き受けるかという難問に対峙することが求められる。鍵となるのは、第三項という概念装置であり、言語論的転回の再転回が目指される。アプリオリにあるものとしてではなく、構築すべきものとして全体を捉えることは、これからの民主主義の創造を考える上で不可欠である。『公然の秘密』を読む授業でも、この問題が顕在化する。実体としての「語り手」である「ぼく」が、どのような出来事を、いかに語っているかを追うことによって、《他者》の問題がいかに明るみに出され、かつ隠蔽されているか、その二重性が浮き彫りになる。その<文脈>を読者が掘り起こしていく営みは、世界と<わたし>を語る<語り>を、教室でいかにひらいていくかという挑戦でもある。高校二年生の授業を基に考察したい。